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昭和16年夏の敗戦 猪瀬直樹

昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)



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日米開戦が昭和16年の12月。
その数カ月前に、日本必敗を予測し、時の内閣(第三次近衛内閣)にその結果をレポートしている人たちがいた。
各省庁、民間、軍から選抜されたエリート達(のちは大臣か博士になるような人物を推挙せよと命令が下っていた)による机上演習という、シミュレーションによって導きだされた答えだ。
彼らは総力戦研究所という機関に集められ、来るべき戦争において"総力戦”についての研究を行い日本必敗を予測したのだ。

総力戦研究所研究生が模擬内閣を組織し、日米戦日本必敗の結論に辿り着いたのは昭和十六年八月のことであった。(中略)日本が南方に石油を獲りにいったらどうなるか、という想定でシミュレーションが進められた。

若いエリートたちは教官が提示するその場その場の状況から、自分たちが取得できる正確な数値を持ち寄り(縦割りのお役所仕事を考えると、これは画期的なことである)シミュレーションを重ねることで、ついに日本必敗の結果を得る。


総力戦研究所は総理大臣の直轄機関のため、その結果を内閣一同の前で発表を行った。
そこでのちの首相である東條陸相が、研究生のレポートを聞いた後にこう、コメントしている

諸君の研究の労を多とするが、これはあくまでも机上の演習でありまして、実際の戦争というものは、君たちの考えているようなものではないのであります。日露戦争でわが大日本帝国は、勝てるとは思わなかった。しかし、勝ったのであります。あの当時も列強による三国干渉で、止むにやまれず帝国は立ち上がったのでありまして、勝てる戦争だからと思ってやったのではなかった。戦というものは、計画通りいかない。意外裡なことが勝利につながっていく。したがって、君たちの考えていることは、机上の空論とはいわないとしても、あくまでも、その意外裡の要素というものをば考慮したものではないのであります。なお、この机上演習の経過を、諸君は軽はずみに口外してはならぬということでありますツ


いちゃもんである。しかし、東條は大いに狼狽していた。架空の話だと断じながらも「口外してはならぬ」と念を押している。
このときの、研究員たちのシミュレーションの結果は、真珠湾攻撃と原爆投下以外はかなり正確に史実をなぞっていた。
実は東條からしてみれば、図星をつかれたような格好だったというわけだ。


しかし、日米開戦し、太平洋戦争へと邁進していく。
このへんの進み方も実に興味深い。が、それは本書を読んでいただきたい。


最良で最堅(The Best and Brightest)を集めての研究結果である。
この本に興味を持ったのが、軍事オタクとして名高い石破茂が国会答弁で紹介していたからだ。
http://togetter.com/li/39322
なんというか、政治に関わってる連中が頭悪いぜー(意訳)というようなニュースばっかりよく見聞きするけど、でも、やっぱり国を動かすような連中、とりわけ、国家公務員、キャリアの人たちってのは頭がいいんだよね。
ふむー。そういうことを考え出すと、よくわからなくなります。


面白いのは、総力戦研究所の研究員たちは、その後、時代に翻弄されはしたものの、各方面で大活躍をした。
が、誰ひとりとして政治家にはならなかったというところが興味深い。