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ゴーゴーカレーでロースカツビジネスルー増し頼んでキャベツを4回おかわりするブログ

ミミズクと夜の王 紅玉いづき

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)


電車の中で、涙をこらえる事に必死でした。
なんという、救いに満ち満ちた話なんだ。


その装丁から、この本が電撃文庫だとは思わないだろう。
なんだか、本格派な印象。ライトノベルじゃないかんじ。
読み始めてみると、ぐいぐいと引き込まれる。
文体は平易で、くだけていて、ライトノベル然とした感じ。
おはなしはまるで童話みたい。


あるところに不幸な少女がいました。
少女はドレイでした。
あるとき、少女は「夜の森」に迷いこみ、「夜の王」に出会います。
少女は夜の王に言いました
「あたしのこと、食べてくれませんかぁ」
夜の王は答えました
「去れ、人間」


そこから始まる、少女ミミズクと夜の王フクロウの物語。
夜の王はミミズクを奴隷にしていた人間なんかより何倍も善良で、不器用だけど優しい。
それを、『魔物』だからという理由で討伐する人間の国王。


ドラマチックで王道を行く物語を描き出すには必要十分な登場人物で語られるこのお話は、ともすれば「陳腐」で「どこにでもある」お話だ。
作者はあとがきでこう語っている

私安い話が書きたいのよ

と。
また、こうも言っている

私安い話を書きたいの。歴史になんて絶対残りたくない。使い捨てでいい。通過点でいいんだよ。大人になれば忘れてしまうお話で構わない。ただ、ただね。その一瞬だけ。心を動かすものが。光、みたいなものが。例えば本を読んだこともない誰か、本なんてつまんない難しいって思ってる、子供の、世界がひらけるみたいにして。私が、そうだったみたいに。そういう、ね。ああ。小説を、書きたいな。


このあとがきを読んで涙がでてきた。
そして、この人はなしとげちゃったんだよ。100%理想通りじゃないかもしれない。歴史に残っちゃうだろうし、何度も何度も読み返されることだろうし、通過点なんかには絶対ならない。きっとこれを読んだ多くの人が目標にして、いま子供で、大きくなって小説家になった人がボロボロになった「ミミズクと夜の王」を、大事にまだ読んでたりさするんだよ。
ものすごい光だと思う。本を読んでいる時間なんて、長い人生からみれば一瞬。その一瞬で、いっぱいの、美しい世界がひろがるんだから。


僕には書けない。
彼女みたいな純粋な思いはない。
こんな小説はゼッタイ書けない。
でも、書くっていいことだな、と心の底から思った。
いい作品に出会った。