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ゴーゴーカレーでロースカツビジネスルー増し頼んでキャベツを4回おかわりするブログ

半島を出よ (上)

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)


作家で『村上』と言われると多くの人が村上春樹を想像する。たしかにハルキはスゴイ。ハルキストもいっぱいいる。あれだけの信者を作れる作家はやっぱり天才だと思う。
が、意外にも直木賞および芥川賞を受賞した事は無い。
これは直木賞、芥川賞の規定に「無名および新進、中堅の作家に与えられる賞」という物が有るからだ。
がんばってノーベル文学賞を目指してください(超根回しを頑張っているという噂)


さて、でもね、僕にとっては『村上』といえば村上龍なのです。
極端にのめり込む人と、極端に嫌う人のどちらかしかいない村上龍作品。どの作品を読んでも、たしかにスッキリさわやかで爽快な気分にはならない。
かならずどこかブラックな部分があり、必ずどこか自分の性癖を押し付けるような記述がでてくる。
惨い方法で人が死に、過度にSM趣味のパラフィリア(性倒錯者)が描かれる。
しかし、この人、デビュー作の『限りなく透明に近いブルー*1』で群像新人賞と芥川賞を受賞している。
両賞を同時受賞した作家は平成19年度上期の芥川賞の諏訪哲史、『アサッテの人*2』と村上龍のみである。


第58回野間文芸賞、第59回毎日出版文化賞を本作で受賞しているが、この作品の凄いところは徹底した取材による、不必要なまでのリアリティだと思う。


ストーリーを軽く説明しよう。
経済が破綻してしまった2011年の日本。
九人の北朝鮮の武装コマンドが福岡ドームを占拠する。占拠の2時間後飛行機で500人の北朝鮮兵が福岡に到着、福岡ドームを中心とした百道一帯を制圧。北朝鮮の反乱軍を名乗る彼らは福岡の独立を宣言する。


簡単に言うとそんな内容だ。
自分は高校時代、福岡ドームにほど近い某私立高校に通っており、北朝鮮によって制圧される百道地区など博多湾に面した場所の地理に明るい。作中でどこそこに検問を置いた、どことどこの道路を封鎖したなどと具体的な地名を出して説明をしているのだが、これが全く、現実の地図と一致する。しかも、市民が日常的によく使う場所、本当に交通の要となりうる場所、500人のコマンドが野営し得る場所という場所が凄く正確に描かれている。地図を見ただけではここまで克明に地域の特性は描けない。
その一点に大きく感動した。


ストーリーは複数の視点から語られる。
上巻では社会からはみ出したホームレス達、北朝鮮の偉い方、福岡制圧を行った北朝鮮兵、対応を行う日本政府(無能)、西日本新聞記者である。
伝えたい内容毎にもっとも的確かつインパクトをもって伝わる視点を巧みに選んで描いている。こういう手法は長編小説の強みだし、ベテラン作家の武器だろう。


とにかくリアルだ。経済状況、政治状況、国際情勢、群集心理、北朝鮮兵の心理、政府高官の振る舞い……その一つ一つが恐ろしくリアルだ。突然、ピストルのような物で武装した人が福岡ドームを占拠したとか言う。それに突っかかって行く人、結局警備らしいことは何もできない警備員、緊張感無くへらへらと笑う日本人。ああ、こういう状況に立たされると実際にこういう行動をしそうだ。というかするかも?? と、納得させられるものばかりだった。


ストーリーは下巻にむけてどんどん加速して行く。
下巻にも期待大!

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