- 作者: 犬村小六,森沢晴行
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/08/18
- メディア: 文庫
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このシリーズ、本当に素晴らしいので大絶賛。
この巻も非常に良かった。
物語の中心のカルとクレア。お互いひかれあう二人だが、カルにとってクレアは親の仇であることを知る。
そして、そのことを乗り越えていくのがこの巻。
3巻で死んでいったクラスメイトたちの葬送から始まり、迫力満点の空中戦、そして次の大きな物語への布石と、物語としていくつもの山場をもってきて、手に汗握るとはまさにこのこと。すばらしいお話だった。
しかし、注目するべきは冒頭のイグナシオの過去編である。
イグナシオは、主人公カルの腹違いの弟で、体面をきにして側室を設けなかった皇帝の性欲のはけ口として使われていた女の息子だ。本来居ないはずの子供。
体面を気にするので、その親子は理不尽に捨てられて、路上に放り出される。
息子は、何も知らずにのうのうと生きている皇子カルに復讐を誓う。
……というストーリーが披露される。
ここで、このイグナシオの母親が息子を育てるためにお金を稼ぐシーンがおぼろげに描写される。
「身体を洗うの」
子どもは、じぃっと動かずに、汚い川で身体を洗う母親を見ていた。
ーー働いたからかな。
そう思った。
母親は籠に花を入れて夜遅くに出かけ、朝方には籠を食料でいっぱいにして帰ってきて、川で身体を洗った。
つまり、そういう事だ。子を育てるために、身体を売って生計をたてている。
いや、ライトノベル以外では暗喩にならない、あまりにも直接的な表現なのかもしれないけれど、こうした言い回しで、現実の残酷性とかそういうのをきっちり描いていくあたりがこのファンタジーにリアリティを与えている。
たとえ、20代男性が実際の読者におおいとは言え、ターゲットはミドルティーンのジャンルだ。ぼかすところはぼかす。けれども、伝えるべき現実の残酷さがこの物語ではしっかりと表現されている。
そこが、この物語を面白いものに押し上げてるんだろうなぁ。